筋肥大を起こすためには疲労困憊まで反復する事が重要と言われており、筋力トレーニングと言えば限界まで追い込むもんだ!という認識が一般的です。
しかし疲労困憊までやらなくても筋肥大が起こるという真逆の報告もあります。
今回は、疲労困憊まで反復するトレーニングの是非に関する論文を紹介します。
目次
Is repetition failure critical for the development of muscle hypertrophy and strength?.
Sampson, John A., and Herbert Groeller.
Scandinavian journal of medicine & science in sports26.4 (2016): 375-383.
背景
疲労困憊まで反復することは、レジスタンストレーニングによる筋力強化や筋肥大にとって基本的な要素であることが数多く報告されている。
一方、疲労困憊まで反復しない場合でも筋力強化や筋肥大が促進される可能性も示唆されており、実際に筋力の向上が見られたとする報告もある。
また、素早い筋力発揮がレジスタンストレーニングへの適応感度を高める可能性も示唆されている。
目的
疲労困憊までの反復が、レジスタンストレーニングに対する骨格筋の適応にとって重要であるかどうかを明らかにする。
方法
対象者
最低6ヶ月間レジスタンストレーニングを行なっていない28名の男性
実験プロトコル
4週間の肘屈筋トレーニング習熟期間
(1週目50%1RM→2週目60%1RM→3週目70%1RM→4週目80%1RM
の負荷で疲労困憊まで反復)
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ベースライン測定
(1RM, 等尺性最大随意収縮:MVC, 主働筋の筋横断面積:CSA)
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3群*による12週間の肘屈筋トレーニング
(4, 8,12週目にベースラインと同じ測定を実施)
*習熟期間の1RM増加率を基に群分け
トレーニングプロトコル
RS群(10名):2秒で肘伸展→最大加速で肘屈曲
SSC群(8名):最大加速で肘伸展→最大加速で肘屈曲
コントロール群(10名):2秒で肘伸展→2秒で肘屈曲
RSおよびSSC群は4回の反復(疲労困憊まで反復しない)
コントロール群は疲労困憊まで反復(6回)
負荷は3群とも 85%1RM(6RM)x 4セット(レスト3分) x 週3回
結果
12週間のトレーニングによる1RM, MVCおよびCSAの増加率
(実験結果を基に作表)
RS | SSC | Control | |
1RM(%) | 28.6 | 32.8 | 30.6 |
MVC(%) | 12.7 | 12.8 | 14.3 |
CSA(%) | 10.9 | 7.1 | 11.6 |
いずれも群間に有意差なし。
1RMの推移
3群とも4週ごとに有意に増加(群間の有意差はなし)。
考察・結果
RSおよびSSC群はコントロール群よりもトレーニング量で30%、疲労困憊まで反復したセット数が90%少なかったが、1RMおよびCSAはコントロール群と同様に向上したことから、筋活動の特徴を操作した場合や高負荷を用いてトレーニングする場合は、疲労困憊になるまで反復する必要はないと考察し、12週間のトレーニングによる筋力の向上は疲労困憊までの反復に依存せず、疲労困憊のない状態での素早い筋活動と少ないトレーニング量でも、そうでない場合と同様の骨格筋の適応は得られる、と結論づけています。
わたしの考え
この研究によって、疲労困憊になるまで反復しなくても筋肥大や筋力向上が起こる事が示されました。これはトレーニングへの適応(特に筋肥大)を起こすためには疲労困憊まで反復する必要があるという従来の考えとは異なるとても興味深い知見です。
ですが、以下の点については疑問が残ります。
トレーニング経験の少ない人を対象とした実験であること
日頃からウェイトトレーニングをやり慣れているアスリートだとトレーニング刺激への適応が違う可能性があるので、この知見通りの負荷や量がそのまま応用できるかどうかはわかりません。
単関節トレーニングで検証されたこと
スクワットやベンチプレスといった多関節トレーニングだと同じ結果になるかどうかもわかりません。
85%1RMでのみトレーニングが行われたこと
筋肥大トレーニングで一般的に用いられる75%1RM(8~12RM)を疲労困憊まで反復するトレーニングとは比較されていないので、そのようなトレーニングと同様の筋肥大が得られるかどうかはわかりません(おそらく筋肥大に特化したトレーニングよりは肥大効果は小さいのではないかと思います)。
いずれにしても、高重量を素早く持ち上げようとすると急激に大きな力を発揮するために選択的に速筋線維が動員され、結果的に筋力の向上や筋肥大が起こるのだろうと思われます。
また、アスリートがトレーニングをする場合は練習や試合との兼ね合いで、疲労の蓄積というトレーニングのマイナス面も考慮しなければならないので、常に最大限の効果が見込めるトレーニングを行うのではなく、その時点での最適なトレーニングを選択する必要があります。
そう考えると、疲労は溜め込みたくないけれど筋量や筋力は維持したい(または少しでも向上させたい)という場合には、85%1RM以上の高負荷で疲労困憊までいかないよう3~4回だけ全力で素早く挙上する、といったトレーニングを行うことが有効ではないかと思います。