【論文紹介】異なる挙上リズムがスクワット中の地面反力に及ぼす影響

ウェイトトレーニングは反動動作を使わずに上げ下げをゆっくり行う、というのが一般的な考え方ですが、前回のブログで解説したように反動動作を使った方が効果的な場合もあります。

では反動動作を使うのであれば、どのようなやり方がいいのでしょうか?
勢いよく反動を使った方がいいのか、それとも割とゆっくり反動を使った方が良いのか、疑問が残ります。

そこで今回は、反動動作を使ったバックスクワットを行なった場合、その反動動作の勢い(リズム)の違いによって発揮する力の大きさや力発揮のタイミングがどう変化するのか?を調べた研究をご紹介します。

Effects of different lifting cadences on ground reaction forces during the squat exercise.

Bentley, Jason R., et al.
The Journal of Strength & Conditioning Research 24.5 (2010): 1414-1420.

背景

スクワットのトレーニング効果は量と強度に影響を受ける。強度はトレーニングで使用する重量だけでなく、動作のスピードを変化させることでも調節することができる。スクワットにおける下降局面から上昇局面へと動作を切り返す際には大きな加速度が発生すると考えられ、下降の速さはSSCによって上昇局面に発揮される短縮性筋力に影響を及ぼす可能性がある。

目的

異なる挙上リズムが、スクワット中の地面反力に及ぼす影響を明らかにすること。

方法

対象者

スクワット経験のある健康なトレーニング愛好家男性6名。
(年齢 31 ± 4歳, 身長 180 ± 9cm, 体重 88.8 ± 13.3kg)

実験デザイン

体重と同じ重さのバーベルを担いだパラレルスクワット
を、

FC(1秒で下降:1秒で上昇)
MC(3秒で下降:1秒で上昇)
SC(4秒で下降:2秒で上昇)

の異なる挙上リズムで行い、挙上中の地面反力(GRF)を測定
FC, MC, SCを、2~3日の休息日を挟んだ別の日にそれぞれ測定した

実験プロトコル

ウォームアップ(W-up)&ストレッチ

⬇️
スクワットのW-up
(体重の50% x 8rep → 75% x 5rep → 75~85% x 3rep → 85~100% x 1rep)
⬇️
スクワット時の地面反力(GRF)測定
(体重の100% x 3rep x 3セット)

セット間レストはすべて2分以上

結果

3つの異なるリズムでのスクワットにおける挙上中の最大地面反力の比較

文献より抜粋し、日本語に修正

最大GRFは、FC群(体重の2.62 ± 0.09倍)が、MC群(2.37 ± 0.08倍)およびSC群(2.30 ± 0.06倍)よりも有意(p < 0.05)に大きかった。
またそれらの最大GRFは、いずれの群とも最も深くしゃがみこんだところから立ち上がる瞬間のあたりで発生していた。

考察と結論

筆者らは、増大した下降速度が上昇中の力発揮を強化したとし、スクワットで骨格筋に対するピーク負荷を最大にしたい場合は、速い下降と速い上昇の組み合わせが有効であると主張しています。

わたしの考え

つまり、スクワットを行う際になるべく勢いをつけてしゃがむと、そのしゃがみこみ動作を止めるために急ブレーキをかけなければならないのでしゃがみ切ったところでは下肢の伸展筋群が大きな伸張性筋力を発揮することになり、その大きな伸張性筋力が発揮されている間に素速く立ち上がることができれば、立ち上がり動作中の発揮筋力や発揮パワーを増大することに繋がる、と考えることができます。

したがって、スクワットで素速くしゃがみ込むという動作は、SSCによる増強メカニズムのひとつである事前の伸張性筋活動による短縮局面開始時の発揮筋力の増大を引き出すためのテクニックとして使えると思います。
私もこのテクニックを使ったスクワットをパワースクワットと呼んで、実際にシーズン直前のパワー強化やシーズン中の爆発的筋力維持のために指導現場で使っています。

ただし、以下の点には気をつけています。

  1. 安定したフォームを習得させてから導入する
    研究結果で示されている通り、しゃがみ込みと立ち上がりを切り返すあたりで大きな負荷がかかるため、安定したフォームでしゃがむ、止めるができないと怪我につながる可能性があるので、適切なフォームができると判断した選手にだけやってもらっています。
  2. 高重量ではやらない
    当然のことですが、バーベルが重くなるほど急ブレーキをかける際の負荷が強くなるため怪我のリスクが高まります。また、バーベルが重すぎると切り返し動作が遅くなってしまい、せっかく増大させた伸張性筋力が体重+バーベルを支える程度のレベルにまで減衰してしまうので、結局立ち上がる瞬間には反動動作を使わないスクワットと同じになってしまいます。ですのでパワースクワットをやるのであれば、50%1RM前後の負荷で必要十分かと思います。
  3. 高重量/低速トレーニングや軽量/高速トレーニングと組み合わせる
    50%1RMで行うということは、最大筋力の向上や筋収縮スピードの改善といったトレーニングとしては最適でない、ということになります。
    あくまでもSSCの切り返し動作における急激な伸張性筋力発揮および短縮局面開始〜前半の発揮筋力増大に特化した種目として考えていますので、最大筋力向上に特化した高重量/低速トレーニングや筋収縮スピードの改善に特化した軽量/高速、あるいはバリスティック動作を含むトレーニング種目も併用すべきでしょう。

トレーニング種目にはそれぞれ一長一短がありますので、必要に応じた使い分けや組み合わせが重要かと思います。