前回のブログで、
アスリートがトレーニングをする場合は練習や試合との兼ね合いで、疲労の蓄積というトレーニングのマイナス面も考慮しなければならない、と書きました。
トレーニング負荷の違いによって神経筋が即時的にどのような影響を受けるかについて調査した研究がありましたのでご紹介します。
目次
Neuromuscular response differences to power vs strength back squat exercise in elite athletes.
Brandon, Raphael, et al.
Scandinavian journal of medicine & science in sports 25.5 (2015): 630-639.
背景
エリートアスリートは、筋力を強化するために高負荷(80~95%1RM)、あるいはパワーを強化するために低負荷(50~60%1RM)など、特異的な適応を得るために異なるタイプのトレーニングを行なっている。
しかし、それらのトレーニングが神経筋にどのような疲労を及ぼすかは明らかでない。
目的
エリートアスリートにおける、高・中・軽負荷での爆発的スクワットへの神経筋反応を明らかにする。
方法
対象者
国際標準記録レベルの陸上(100m, やり投げ, 三段跳び)選手10名
(全員4年以上のスクワット経験あり)
実験デザイン
10分間のエアロバイクによるウォームアップ
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筋機能テスト(Pre)
(最大単収縮筋力;Pt, 最大等尺性随意収縮;MVIC, 中枢活性率;CAR,
力の立ち上がり率;RFD, 垂直跳び;CMJ)
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5レップ × 5セット(レスト3分)の爆発的スクワット
(挙上中に発揮パワーと力積を測定)
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筋機能テスト(Mid)
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5レップ × 5セット(レスト3分)の爆発的スクワット
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筋機能テスト(Post)
スクワットの負荷を、
中負荷(高負荷の75%)▶️ 高負荷(85%1RM)▶️ 軽負荷(高負荷の50%)
の順番で3日に分けて実施。
結果
異なる負荷での爆発的スクワットに対する有意な筋機能の変化
(実験結果を基に作表)
高負荷 | 中負荷 | 軽負荷 | |
発揮パワー | 21%▼*** | ||
Pt | 28%▼** | 27%▼* | |
MVIC | 13%▼*** | 9%▼*** | |
RFD | 28%▼*** | 13%▼*** | 15%▼*** |
*** (p <0.001), **(p < 0.01), *(p < 0.05)
CARおよびCMJは変化なし。
考察・結論
筆者らは、高負荷の爆発的スクワットではより大きな力が発揮されるが、セット数を重ねるうちに末梢の疲労が起こり挙上速度および発揮パワーが維持できなくなる一方で、中負荷はそれほどの疲労を起こさずに発揮パワーを維持することができたとし、筋力とパワーの両方を強化したい場合は、疲労を残さずに必要な神経筋の反応をもたらす中負荷が推奨される、と結論づけています。
わたしの考え
この研究によって、85%1RM以上の高負荷でのトレーニングを行うと、トレーニング中やトレーニング後にパワーの低下が起こることが示唆されました。
これは、高・中・軽の様々な負荷を用いたトレーニングを同じ日に処方する場合においては有用な知見になると思います。
しかし、以下の2点は気になりました。
中負荷だけが最適負荷で、高負荷や軽負荷が重要でないという訳ではない
中負荷が有効なのは、あくまでも「即時的な疲労を抑えつつ、筋力とパワーの両方の適応を同時に促したい場合」と解釈すべきです。
高負荷トレーニングでの疲労は即時的なもので翌日以降の影響はわからない
高負荷のあとに中 or 軽負荷も扱うコンカレントトレーニングを処方する場合には注意が必要でしょう。しかし、中〜長期的に最大筋力を向上させることが目的の場合には、高負荷でのトレーニングが効果的なのは間違いないと思われます(筆者らもこの点については言及しています)。
コンカレントトレーニングを処方する場合は、高負荷トレーニングを4レップもしくは4セット以下にすれば即時的な疲労も回避できるかもしれません。