SSC動作とバリスティック動作の組み合わせ

先日、Twitterに以下の動画を投稿しました。

ウェイトトレーニングを行う際には、筋肥大・筋力強化・パワー強化などトレーニングの目的によって、負荷・回数・セット数などを変えるのが一般的です。しかし、トレーニング動作を変えることでも異なるトレーニング効果が期待できます。
ということで今回は、先ほどの動画で紹介した4つのトレーニング動作について解説していきます。

SSC動作とバリスティック動作について

まずは動画のトレーニング動作の基になっている、SSC動作とバリスティック動作について見ていきましょう。

SSC動作の特徴と利点

特徴

SSCとはStretch Shortening Cycle(ストレッチショートニングサイクル)の略で、日本語では伸張-短縮サイクルと言います。これは、筋肉が一旦急激に伸張(引き伸ば)された直後に短縮(収縮)するという一連の流れを指す用語です。
そしてSSC動作とは、関節を一旦すばやく曲げてから伸ばす( or 伸ばしてから曲げる)という反動を使った動作、となります。
したがって、

  1. スクワットでの一旦しゃがみ込んでからすぐに立ち上がる下肢の動作
  2. プッシュアップでの一旦腕を曲げて下がってからすぐに腕を伸ばして上がってくる上肢の動作
  3. メディシンボール(MB)ツイストでの一旦MBを反対方向に振りかぶってからすぐに投げる体幹部の動作

これらはすべてSSC動作、となります。

利点

SSCを使うと、

1)伸張反射注1)
2)筋腱複合体の弾性エネルギーの蓄積と再利用

などによってSSCを使わない場合に比べて動作中に発揮される筋力やパワーが大きくなることが知られています。これをSSCによる増強効果と言います。
そして、SSCによる増強効果が起こるもうひとつの重要なメカニズムとして、

3)事前の伸張性筋活動による短縮局面開始前の発揮筋力の増大

というものがあります。これは反動動作にブレーキをかけるために発揮された筋力を短縮局面の筋力やパワー発揮に活かすことができるというもので、比較的大きな関節可動域で動作することの多いウェイトトレーニングにおいては、このメカニズムがより大きく貢献するものと考えられます。

一方、SSCを使わない場合は筋力やパワーが増強されることがないため、随意的に発揮される短縮性筋力を強化できる利点があります。さらにSSCを使わない場合でもできるだけ素速く動かす意識を持って動作すれば、爆発的に筋力を発揮する能力注2)が高まることも報告されています(Behm & Sale, 1993)。
また、SSCを使った動作では伸張性筋活動から短縮性筋活動に切り返す際の負荷が非常に強くなるので、筋力が低い、高重量を扱う、リハビリ中、といった場合はSSCを使わない(or ゆっくり切り返す)動作でトレーニングする方が安全です。

したがって、

動作前半に大きな筋力やパワーを発揮させたい場合は、SSC動作を使った方が良く、
爆発的筋力を高めたい場合は、SSCは使わずに素速く動作すると良い

ということになります。

1)SSC = 伸張反射、という認識は誤りです。伸張反射はあくまでもSSCの増強メカニズムのひとつに過ぎないことは知っておきましょう。
注2)爆発的に発揮される筋力を爆発的筋力といい、RFD(Rate of Force Development:力の立ち上がり率)という指標を使って評価することができます。

バリスティック動作の特徴と利点

特徴

バリスティック(Ballistic)とは、”弾道的・弾道性の”という意味の単語です。
Wikipediaによると弾道とは、

銃弾や砲弾が発射された瞬間から弾着する瞬間までにたどる経路の事

とあり、文献では

バリスティックとは高速度で加速的であり、可動域内の最終点は制限されていない

と定義されています(Newton & Kreamer, 1994の日本語版)。

したがって、

身体重心やMBなどの対象物を可動域全体に渡って加速し続け、動作の終点では止めることなく投射(ジャンプ or スローイング)する

という動作がバリスティック動作である、と解釈することができます。

利点

動作の最終点で動きを止める通常の動作(非バリスティック動作)を行うと、動作中盤〜後半は主働筋の力発揮が弱まったり、時には拮抗筋がブレーキをかけてしまうこともあります。トレーニング負荷が軽くなるにつれ動作後半に減速する傾向が強くなることも報告されています(Sanchez-Medina,et al, 2010)。
一方、動作の最終点まで対象物を加速し続けるバリスティック動作を行えば、動作の最後まで筋力を発揮し続けることができます。

したがって、

動作後半での加速能力・動作全体の発揮パワーを高めたい場合には、
バリスティックな動作が有効

となるでしょう。

SSC動作とバリスティック動作の組み合わせ

以上をまとめると、動画にある4つの動作は次のような用途で活用できると考えられます。

  非バリスティック バリスティック
SSCなし 中〜高重量でのトレーニング
動作前半での爆発的筋力強化
(初心者やリハビリ時)
軽〜中重量でのトレーニング
動作前半での爆発的筋力強化
動作後半の加速能力
SSCあり 中〜高重量でのトレーニング
切り返し時のブレーキ力強化
動作前半の筋力・パワー強化
軽〜中重量でのトレーニング
素速い切り返し動作の改善
動作全体の発揮パワー強化

これらは私が実際に現場で大学生アスリートに処方しているトレーニング法です。しかしこれが全ての競技種目や競技レベルの人に当てはまるという訳ではないと思いますので、あくまでアイデアのひとつとしてトレーニング指導の際の参考にしていただければ幸いです。