ストレングス&コンディショニング(S&C)コーチの主な仕事は、アスリートに対してウェイトトレーニング指導を行って彼らの筋力やパワーを高めることです。近年では競技スポーツにおけるトレーニングの重要性が認知されてきていて、野球、サッカー、ラグビー、アメフト、バスケットボール、バレーボール、など、多くの競技のトップカテゴリーのチームには専属のS&Cコーチが在籍するようになっています。
“チーム専属のS&Cコーチとして働く”
これが多くの若手S&CコーチやS&Cコーチを目指しておられる方々の憧れであり、大きな目標のひとつとなっているのではないかと思います。
ですが、チーム所属のS&Cコーチがどのような契約形態でそのチームで働いているのかはあまり知られていないように思います。そこで今回は、チーム指導を行っているS&Cコーチの契約形態について私の知る限りの実状を書いてみることにします。
目次
チーム指導を行うS&Cコーチの契約形態
チームとの専属契約
チームとの直接契約
所属するチームと直接契約を交わします。トレーニング指導だけでなく練習のウォームアップ、練習前後の個別指導、合宿や試合などの遠征への帯同などチーム活動にはすべて帯同する契約となるのが一般的です。
ほとんどが個人事業主としての業務委託契約となっているかと思われます。1年毎に契約更新が検討される事が多く複数年で契約する事はあまりないかと思われます。報酬額はチームによりけり。この契約だけで生活していける金額である事が多いとは思いますが、専属契約であっても他にも仕事をしないと生活できない金額の場合もあり得ます。その場合は他のチームとの契約はできませんのでチーム指導以外の仕事をどこかですることになります。個人事業主としての契約ですので、社会保険や厚生年金などの補償はなく国民健康保険や国民年金などは全額自分で負担しなければならず、所得税についても自分で確定申告する必要があります。
第三者機関からの派遣
チームにS&Cコーチやアスレティックトレーナー(AT)、鍼・灸師や柔道整復師といった治療家を派遣する契約を結んでいる企業との契約となります。業務委託の他に、その企業の社員として雇用される場合もあります。この場合、チームでの契約期間のみ契約社員として雇用される事が多いと思われます。派遣元の企業への日々の活動報告やミーティングや面談などの不定期な出社が必要となりますが、基本的には直接契約の場合と生活リズムは変わらないかと思います。こちらも報酬額は企業によりけりです。契約社員としての雇用であれば社会保険などの福利厚生は保証されている事が多いと思われます。チーム以外の仕事が認められていて実際にチーム指導以外にも収入があれば確定申告をした方が良い場合があります。
競技団体(協会)との専属契約
サッカー協会やバスケットボール協会など競技ごとの中央協会との契約になります。いわゆる代表チームの専属スタッフです。代表チームの合宿・海外遠征などに帯同します。代表チームの活動がない期間においても、選手の所属チームでの練習視察、各チームのS&Cコーチとの情報共有や個別プログラムの提供、ユース年代の育成選手へのトレーニング指導などを行います。どこかのクラブチームに所属したまま代表チームのS&Cコーチを兼任する場合もあるようです。その場合は代表チームの活動中は代表チームに帯同し、代表チームの活動がない期間は自チームの仕事をするという事になるかと思われます。
トレーニング施設勤務
チームがトレーニングを行なっている施設に勤務しトレーニング指導を行うという形態です。国立スポーツ科学センタートレーニング指導員、大学や高校のトレーニング室職員、民間あるいは公共のトレーニング施設の社員・契約社員、職員などがこれに当たります。ひとつのチームのみを担当することもありますが、複数人のS&Cコーチがその施設を利用するいくつかのチームをそれぞれ担当する、というケースが多いのではないかと思います。例えば、月・木はバスケットボール、火・金は柔道、とか、午前中はラグビー、午後はバレーボールといった具合です。特性の異なる競技を担当するのでS&C指導の知識や能力を幅広く身につける事ができますが、基本的にはトレーニングルーム内でのウェイトトレーニング指導が主な仕事となるため、フルタイム契約のようにチーム活動のすべてをトータルサポートする仕事ではありません。場合によっては練習が行われるグラウンドや体育館での各種コンディショニング、合宿や試合への帯同などを行う事もあります。
複数チームとのパートタイム契約
週または月に数回のみS&C指導に行くというパートタイム契約です。フリーランスで活動している多くのS&Cコーチがこの形態で複数のチームを指導しています。フルタイムでS&Cコーチを雇うほどの予算はないがトレーニング指導はしてもらいたい、という高校や大学の運動部との契約が多いのではないかと思います。プロチームでもフルタイムではなくパートタイム契約でS&Cコーチを採用するところもあります。報酬については月々の指導回数が決まっている場合は月額報酬であったり、不定期での指導となる場合は1回ごとに報酬が発生するなど契約によってマチマチです。移動にかかる交通費もチームが負担してくれるところもあれば自己負担のところもあります。
教員がS&C指導も兼務
高校や大学の教員が学内の運動部のS&C指導を担当するケースです。トレーニング科学系の先生がS&Cコーチも兼任されるケースや、教員になってからS&Cを勉強してCSCSやJATI-ATIといった資格を取得してS&C指導をされるケースなどがあります。この形態の場合は、先生方のS&C指導に関する報酬は学校からも運動部からも発生しない事がほとんどです。
アシスタント契約
上記の現場においてヘッドS&Cコーチの指示のもと、トレーニング指導に必要な用具などの準備・片付けや選手のトレーニング補助などを行うのが主な仕事です。能力に応じて選手へのプログラム説明やフォーム指導を担当させてもらえたり、場合によっては基本的なトレーニングプログラムの作成を任せてもらえたりします。少額ながら業務委託契約を交わすケースや、週または月に数回働かせてもらえるアルバイト(時給)契約となるケースなど契約形態は現場によってマチマチです。アシスタントとは言え、報酬が発生する場合はCSCSやJATI-ATIといった資格やトレーニング指導の経験が採用の必須条件となる場合が多いと思います。
インターン
現場経験を積みたい若手S&CコーチやS&Cコーチを目指している学生さんなどを研修生として受け入れているチームもあります。資格や経験の有無はあまり問われません(ただし志望動機は問われると思います)が、ほとんどの場合が無報酬 = ボランティアです。選手への指導やトレーニング補助は簡単には担当させてもらえないと考えた方が良いでしょう。基本的には現場のS&Cコーチが働く様子を見て学びながら、何か仕事を指示されたらそれが雑用でも何でも全力でやる立場です。頑張りが認められれば何かチャンスをもらえるかも知れません。
まとめ
以上が私の知っているチーム指導を行っているS&Cコーチの主な契約形態です。
もし他の形態もあったらご容赦ください笑
S&Cコーチとして働きたい方々の参考になれば幸いです。
チームとの専属契約を交わしてフルタイムS&Cコーチとして働く事は多くの若手S&Cコーチの方々の憧れや目標であると思いますが、それを実現できている人は今のところそう多くはいません。フルタイム契約を望むのであれば、パートタイムやアシスタントで指導経験を積みながらどこかのチームとのフルタイム契約のチャンスを待つ必要があります。
チームとの契約の話はなかなか公には出てこないのも現状としてあります。
どうすればチームと契約するチャンスを得る事ができるか?についても近いうちに書いてみたいと思います。