みなさんこんにちは。
S&Cコーチの池田です。
5月6日までとされていた緊急事態宣言が、5月末まで延長されることが発表されました。まだまだ余談を許さない情勢となっていますが、13ある特定警戒都道府県以外のいくつかの県からは段階的に活動自粛が緩和される見通しが発表されるなど新しい動きも見られるようになってきました。
ですが、これまで通りの生活がすぐに戻ってくる訳ではなく、集会や集団行動が今まで通りに行えるようになるにはまだまだ時間がかかりそうです。つまり、スポーツやトレーニングについてはまだ再開の目処が立たないことに変わりはありません。
そんな中、全米ストレングス&コンディショニング協会(NSCA)から、コロナウィルスによる不活動から安全にトレーニングを再開するためのガイドラインが公開されましたので、今回はその内容をご紹介していきます。
目次
COVID-19 RETURN TO TRAINING
Guideline on Safe Return To Training For Athletes
NSCA COVID-19 Return to Training Taskforce
原文はこちら
COVID-19:トレーニングの展望と課題
世界は今、COVID-19による世界的なパンデミックを経験している。
疾病対策予防管理センター(CDC)によると、COVID-19は、ウイルスが付着した表面への接触、感染者が咳やくしゃみ、あるいは話した際の飛沫によって他者へと感染するウイルス性の病気である。
ユース、大学、プロスポーツ機関はすべての競技活動を停止しトレーニングを計画的に実施している。その結果、S&Cコーチのトレーニング実践に関して不確かな状況が発生している。コーチとアスリートがトレーニングを再開するにあたり以下の可能性が考えられる。
- プレシーズンスケジュールの変更あるいは短縮
- 極端なコンディショニング不足;あるいは選手間の調整レベルのバラつき
- ケガとオーバートレーニングのリスク増大
- 好ましくない体重の増加または減少、体組成の変化
- リハビリテーションプログラムの進行の停滞または阻害
- 感染への恐怖と社会的距離に関連する施設およびプログラムの課題
本文書の目的は、アスリートが完全なトレーニング活動に戻るための移行期間に行うトレーニングの、安全かつ適切な実践をサポートするために必要な情報をまとめる事である。
ここに含まれる情報は、COVID-19に関する政府、州および地域の最新のガイドラインに準拠して適用されるべきである。
また、活動再開後のアスリートのすべてのリスクは、COVID-19の蔓延に対する予防措置の範囲を超えていることに注意すべきである。
リスクの最小化:スケジュールおよびチームトレーニングセッションの管理
- S&Cコーチは大人数でのトレーニングを避けるために通常のトレーニングルームのスケジュールを調整し、フロアや用具の清掃のためにトレーニングセッション間に余分な時間を確保すべきである
- リスクの高い地域から戻ってきた選手やコーチ、または感染経験者がいる可能性があるため、ウイルスの無症状感染を防ぐために追加の予防措置が必要となる
- トレーニングセッション毎のグループ人数にはすべての選手とスタッフが含まれていなければならず、集会や社会的距離に関しては政府、州、地域に従って所属期間ごとの方針を遵守するべきである
- 人の往来や混雑が起こりやすくなるトレーニンググループの入れ替え時には特に配慮が必要である
- COVID-19による制限の時期や解除に応じて、S&Cコーチは2m*の社会的距離を保つための準備をしなければならない
*原文では6フィート(≒ 1.83m)と記載
施設と用具:清掃と衛生手順
安全性と機能はウェイトトレーニングルームの運営における最優先事項である。すべてのウェイトトレーニングルームの床および用具は、ウィルスの増殖を防ぐために、殺菌剤(抗真菌剤、抗バクテリア剤、抗ウイルス剤など)を使用して定期的に清掃しなければならない。S&Cコーチは、少なくともNSCA の「運動施設と機器のメンテナンスのための安全チェックリスト」に概説されている清掃スケジュールを遵守する必要がある。
ウェイトトレーニングルームには、以下のような清掃・衛生管理用品を常備しておく必要がある。
- 消毒剤(殺菌剤)
- 手指消毒剤(アルコール度数60%以上)
- 特殊洗浄剤(木材、壁、ベンチシート、ガラスなど)
- ペーパータオル
- 消毒液拭き
- スプレーボトル
- 布タオル・雑巾
- スポンジ
- ほうきとチリ取り
- 掃除機
- モップ類
- 布製のタオルや雑巾を使用している場合は、共有するべきではない。
- 布製のタオルや雑巾は、衛生的な方法で保管し洗濯するように注意しなければならない(例:除菌、お湯で洗う、清潔なものと汚れたものを分別するなど)
- 必要のない用具はトレーニングルームから撤去・保管し、清掃する場所を少なくするべきである
- 清掃と衛生管理は、トイレ、更衣室、カーペットやフローリング、エクササイズマット、水飲み場、ニュートリションコーナーといった共用スペースにも適用すべきである
- メディシンボール、ダンベル、ケトルベル、ウェイトベルト、バーおよびプレートなどの共用の用具においても同様に行う必要がある
- 飛沫が空気中から除去される時間を短縮するために、新鮮な空気の循環、換気、日光(可能であれば)を重視すべきである
- 細菌や微生物の繁殖を防ぐため、相対湿度は60%を超えてはならない
トレーニングの安全性:不活動期間後のリスクファクター
COVID-19による外出制限によってほとんどのトレーニングが阻害または制限されており、不活動後のアスリートは、外傷・障害に対して非常に弱い状態である。
ここでは、S&Cコーチがアスリートのトレーニングに対する速やかな決定をサポートする鍵となる2つの情報を紹介する。
- CSCCa(Collegiate Strength and Conditioning Coaches Association:大学ストレングス&コンディショニングコーチ協会)とNSCAによる合同ガイドラインSafe Return to Training Following Inactivityが、リスクの高い移行期間のアスリートを守る事を目的に2019年に公開された。しかしながらCOVID-19の場合、不活動からのトレーニング再開は競技、チーム、選手、機関によって異なるであろう。S&Cコーチは、スポーツにおける傷害および熱中症、労作性横紋筋融解症、心肺機能不全による死亡の発生に関して合同ガイドラインを特に参照すべきである。そこでは最初の2〜4週間におけるトレーニング量、強度、運動休息比における安全な上限を推奨している。
- トレーニングの安全な再開をさらにサポートするため、NCAAスポーツ科学研究所が大学スポーツにおける重篤なケガと死亡を予防という提言を2019年に発表した。そこには、順応とコンディショニング、大学選手の移行期とリスクの高い時期、選手を保護するためのS&Cコーチの具体的な役割と責任についての部分が含まれている。
S&CコーチがCOVID-19後のトレーニングを適切に再開するには、
- 環境や外的要因と同様に、アスリート個々のトレーニングレベルを考慮しなければならない
- 初心者は入門的なトレーニングから始めるのが一般的だが、すべてのセットでオールアウトできる能力を持った中・上級者は、オーバートレーニング状態になるのを避けるために、そうすることは控えるべきである
- COVID-19からトレーニングを再開してすぐは、セッション数を週3回以内としセッション間には1〜2日の休息日を設けるべきである
- もしも回復とレディネス(準備状態)を管理しながらより短く頻度の高いセッションを実施するのであれば、S&Cコーチはエビデンス(根拠)とコンセンサス(総意)に基づいた判断を下すべきである
- あらゆる長期的な不活動は、遅発性筋肉痛(DOMS)の可能性を高め、可動性および柔軟性を低下させるため、伸張性トレーニングおよびプライオメトリクスの再開については十分に考慮しなければならない
- 再開直後の課題となるであろう、スポーツに必要なダイナミックな動作パターンの再構築は、目標を定め体系化されたウォームアップを行うことで達成することができる
- 10〜20分間の体系化された漸増的な動的ウォームアップは、スプリント動作を訓練し、可動性と可動域を向上させ、心血管系機能を再構築しながら、競技に備えて身体を準備しケガの可能性を軽減するのに適している
その他の重要な要因
- S&Cコーチは、アスリートの生活に影響を与え、チームのトレーニングと競技への復帰を手助けする上で重要な役割を果たす
- しかし、トレーニングを検討する前に、アスリートにとってより優先されるニーズをサポートする事が最も重要である。
- とりわけ、睡眠習慣、起床、食事、通勤や通学、そして学業上の責任などアスリートが規則正しいスケジュールに戻れるように支援するべきである
まとめ
いずれも、感染予防・感染拡大防止の基本となる、飛沫感染と接触感染に対する対応が徹底されています。今後スポーツ活動が段階的に再開された際には、S&Cコーチを含むすべてのスポーツ現場の従事者は、
- 政府・自治体・地区が定める対応方針を遵守する
- 社会的距離(ソーシャルディスタンス)を保つ
- 同時に活動する人数を制限する
- 極力用具は共有せず、止むを得ず共有する場所や用具は衛生管理を徹底する
- ケガ・熱中症・オーバートレーニングなどを回避するために低強度・少量のプログラムから再開する
という対応を行わなければならない、という事ですね。
基本的な部分を押さえつつも、あとはそれぞれの現場に合わせた工夫は必要かと思います。
また、感染予防の他に日常生活や学業への復帰もサポートすべきという提言は素晴らしいなと感じました。個人的にはこの点もおいてもしっかりサポートしていきたいと思います。
最後に、この他の情報をリンクしておきます。
みなさんの現場が再開された日の参考になれば幸いです。